『道草』冒頭

▼『道草』の初出についてメモ。

初出:『東京朝日新聞』及び『大阪朝日新聞』
連載時期・期間はほぼ同じ。
第1回は大正4年6月3日に発表。以後ほぼ毎日連載。9月14日終了。
単行本初版は大正4年10月10日、岩波書店より発行。

そして冒頭。

健三が遠い所から帰って来て駒込の奥に世帯(しょたい)を持ったのは東京を出てから何年目になるだらう。

『定本漱石全集 第十巻 道草』(2017年12月,岩波書店)

いいねえ、この一文。
いきなり疑問文だよ。問いかけだよ。
評論の授業だったら、絶対に線を引かせるね。
そして「答えはどこにあるかな」と問うよ。

「遠い所」と言うのは、主人公でさえはっきりしないということか。
いやいや、意識的にはっきりさせたくないのだろうか。
「遠い所」とはいったい何処なのか。
主人公はそこにどのくらい滞在したのか。
そして何があったのか。
語り手はそれを秘匿する。

スリリングだねえ。
漱石を重ねると、そこは英国だと予想が付く。
けれどほんとうにそうなのか。
主人公の健三とは漱石自身なのか。

読み進むモチベーションが何倍にも増幅する。
グリコのアーモンドチョコレートが「一粒で二度美味しい」というのなら、
『道草』は「一文が何文にも読めてしまう」小説と言えるかもしれない。